「いいとき生まれた!昭和30年代」
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第36号 紙あれこれ
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いいとき生まれた!昭和30年代 第36号
2005. 5. 10
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前号は、お茶屋さんへのおつかいの話でしたが、
私にはもう一つ、忘れられないおつかいがあります。
といっても、こちらのほうは、
頼まれていくおつかいというより、
自分で必要になって、行かねばならなかったおつかいでした。
小学校の1,2年のことでしたので、
正確には、昭和40年代頭のことです。
学校で千代紙を使った工作をすることになり、
それを用意していくことになりました。
ところが、私はそれまで、千代紙なるものが、
どんなものなのか、まったく知らなかったのです。
でも、母に言えば買ってきてくれるだろう、
と軽く考えて帰宅し、さっそく母に、
「学校でちよがみっていうのを使うから、
用意してきなさいだって」
と言いました。
すると母は、言いました。
「じゃあ、駅の近くの文房具屋さんで売っているから、
買ってきなさい。」
えっ?
よりによって、わけわかんないもののときに、
そういうこと言うか?
「買ってこいったって、どんなのかわからないよー。
ついてきてよー。」
ごねてごねて、粘ったのですが、
母も頑として、ついていこうとはしませんでした。
「お店の人に聞けば、わかるから。」
と言われてしまえば、ごもっともなことで、
それまでです。
仕方なく、私はどんなものかを知らない不安を抱えたまま、
文房具屋さんまで、やってきました。
お店に入ろうとして、
ふと入口の横に置いてあった棚に目をやると、
なんと、あるではないですか。
お目当ての文字が袋に書いてある紙が。
「なーんだ、これのことか。」
わかって良かった、良かったと思いながら、
それを買って帰りました。
「ただいま〜。」
「あった?」
「うん、あったよ!ほら!」
「……………。」
一瞬、絶句した母の口から、次に出た一言。
「ばっかだねーおまえは!」
「?」
母よ、そう言われても、わけわからんぞ。
きちんと説明せい。
なんて言ったら、ぶっとばされただろうけど、
とにかく、わけがわかりません。
実は、私の買ってきた袋には、
「ちよがみ」ならぬ、
「ちりがみ」という文字が書かれていたのでありました。
昔、50枚だったか100枚くらいだったかの束を、
そのまま二つ折りにした形で、
袋に入れたちり紙が売られていましたね。
ポケットティッシュがない時代は、
これを、その都度何枚か出してはたたんで、
持ち歩くのが普通でした。
で、ともかくも、
歩いているうちにか、それを見た瞬間にか、
聞きなれない「ちよがみ」が、
聞きなれた「ちりがみ」に、シフトしてしまったようです。
たまたま、私が見つけたちり紙は、高級なものでしたので、
ちょっと気取った感じで、
それがいつも使うものと同じとは思わなかったのでしょう。
(たぶん)
あまりの我が子のばかさ加減に、
母は怒る気も失せたのか、私を連れて、
今度は素直に、文房具屋に交換に出向いたのでした。
だから、最初からついてきてくれりゃ、早いのに〜。
(そういう問題じゃないんだけど)
文房具屋さんが、「ここからお選びください」と、
お店の一角の引き出しを開けてくれて、
初めて「ちよがみ」なるものを見た私は、
自分の勘違いの大きさを、ようやく知ったのでした。
でも、もしかしたら、
いや多分、
いや絶対、
「ちよがみと間違えて、ちりがみを買ってった子供がいたんだよ。」
とあの文房具屋で、笑い話にされただろうな。
今、私がそのくらいの子供だったら、
絶対、間違えない自信があります。
だって、「ちりがみ」なんて書かれた商品、
どこにも売ってませんもの。
ちなみに持ち歩くちり紙が、
白くて柔らかめで感触も良かったのにくらべて、
トイレで使われたのは、古紙を再生したもの、
しかも、漂白はしてないので、
グレーで手触りもちょっとごわごわしたかんじの、
四角いちり紙でしたね。
時には、もとの新聞の文字がちょっと残ってたりして、
でも、そういうのを見つけると、なぜか嬉しくなったりしました。
こちらは、便所紙とかおとし紙とも、言われてましたっけ。
それでも、さらに昔は、新聞紙そのものなどを使っていたそうですから、
このちり紙も、大きな進歩だったわけですね。
昔のトイレの隅には、専用のかごとかが置いてあって、
そこにこのちり紙が積まれてました。
何かの蓋をひっくりかえして、
置き台代わりにしているところもあったな。
このトイレ用の紙は、結構まとまった高さのワンセットで、
売られていたような記憶があります。
買って持って帰る時には、
ちょっとかさばったのではないでしょうか。
もっとも、今のトイレットペーパーだって、
けっこうかさばるし、ずっと持ってると重いですけど。
「おとし紙」や、「便所紙」は、もうすっかり死語ですけれど、
「ちり紙」や「はな紙」なんていうのも、似たようなものでしょうね。
自分だって、使わない言葉になってしまいましたもの。
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編集後記
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今日は、話がそれますが、
JR西日本の事故について、ちょっと触れたい気分です。
早くも2週間がたちましたが、
なんだか事故の後にも、嫌な話がたくさん出てきますね。
危機管理の認識や緊張感が希薄なのは、
社会全体の現象ですが、
それにしても、命を運ぶ会社の社員までが、
驚くべき認識で…。
自分のところが関係なくても、
世間の目から見たら会社は一つ、ということは、
ふつうなら上司が部下に教えることではないのでしょうか。
でもその後に、今度は、
JR西日本の社員に対するいやがらせや、
置石などのいたずらが多発しているというのは、
さらに嫌な話です。
本当に、この国は、人間のモラルが、
どんどんゆがんで低下していきますね。
これまでもそうでしたが、
こういった企業体質や社会のゆがみって、
事故や事件になって犠牲者を出して、
初めて問題になりますけれど、
それではいけないはず。
今回の事故でも、犠牲者の方はもちろん、
ご家族の方の悲しみは、胸につきささるようです。
また、運転手のご家族も気の毒だなあと思います。
家族を亡くした悲しみは一緒でも、
おおっぴらにそれを出すわけにはいかない、
というのもつらいと思いますよ。
犠牲者が出てから、問題に目を向けていたら、
こういう不幸は、後を絶ちません。
人間のモラルが低下している時代を、
もっと真剣に見つめなおすところから始めていくこと、
それしか最大の防止策はないのかもしれません。
この事故以来、電車に乗る時は、
入ってくる電車の運転手さんを、
きっちり見るようになりました。
考えたら、命を任せる人なんですもの。
見てみると、もちろん基本は、
「仕事中です!真剣に運転してます!」
という感じの運転手さんたちですが、
人によって、背筋もピッと伸びて気合を感じる人とか、
職人肌だよって感じの人とかいろいろいて、
一瞬のことですけど、人間観察できます。
でも、アルミの車両だと、
ちょっと不安が頭をかすめるようになりました。
そういえば、何年か前の日比谷線の事故の後も、
座っていて電車がすれ違う時に、
思わずひやりとしたものです。
当事者でなくても、事故後しばらくは、
こう感じてしまうことがあるということは、
実際に乗っていた人の心の傷は、
はかり知れないほど深いものだと思います。
私は、小学校3年の頃までは、
ドッチボールとか大好きでしたが、
ある日、体育の授業で、
なんかの球技をやっているときに、
顔面にボールが直撃したことがあります。
それで、怪我をしたわけでもなく、
痛さに泣いただけでしたけど、
それ以来、球技がすっかり怖くなって、
今でもボールはもとより、
何かを投げて渡されるのも苦手です。
それでも、物のほうは、年季がはいってきたもんで、
だいぶ平気になってきましたが、
ボールはだめです。
どんな球技だったかも忘れているし、
投げた相手が必死に謝ってくれたのは覚えていても、
それが誰だったかも忘れています。
でも、恐怖感だけはしぶとく残っているのです。
(まあ、ぶつかったお陰で、
顔のつくりが多少、修正されたと思うことにしてますが。)
しかし、このことを思うと、
命の恐怖にさらされた思いは、
どれほどのトラウマになってしまうのか、
想像つきません。
亡くなられた方のご冥福をお祈りするとともに、
助かった方、残された方が、
一日でも早く、心の痛みから立ち直れることを、
祈ってやみません。
(ひとみ)
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